ステーブルコインを巡る論争の背後に隠された金融秩序の駆け引き

作者：Byron Gilliam

翻訳：AididiaoJP，Foresight News

原題：なぜ伝統的メディアの人々はステーブルコインのイノベーションを批判するのか？

「かつて中央銀行家たちを眠れなくさせたイノベーションが、最終的には彼らの足元を支える強固な基盤となるかもしれない。」——デビッド・ベックワース

危険論：金融安定への脅威

The Atlanticの寄稿者デビッド・フラムは、ステーブルコインは「これまでで最も危険な暗号資産の形態」だと警告している。彼は「GENIUS法案」がそれを合法化することは、「アメリカの次なる金融災害の導火線に火をつけるようなものだ」と述べている。

フラムは、ステーブルコインの規模が4兆ドル（Citiの予測による）に急増し、ほぼすべての資金が3ヶ月物国債に流入すると予想している。これは同法案で購入が許可されている中で最もリスクの高い資産クラスである。

彼は、国債市場が2022～2023年の暴落を再現すると予言している。保有者が一斉に償還を求めた場合、ステーブルコイン発行者は4兆ドル分の国債を巨額の損失で売却せざるを得ず、取り付け騒ぎを引き起こすだろうと述べている。

さらに深刻なのは、フラムがステーブルコインには「サブプライム証券のすべてのリスク特性がある」と指摘し、最終的には政府が2008年のように納税者の資金で民間の損失を補填せざるを得なくなる可能性があると述べている点だ。

疑問の声

しかし注目すべきは、2022～2023年の国債下落は18ヶ月続いたことだ。3ヶ月ごとに満期償還される資産で、なぜレバレッジゼロで運営する発行者にパニックが起こるのか？この論理には疑問が残る。

我々がフラムの見解を取り上げるのは、その警鐘がドラマチックであるだけでなく、一般の人々の広範な懸念を反映しているからだ：ステーブルコインは失敗する運命にあり、ゆえに危険だという考えである。

成功論：既存システムの転覆

IMFのヘレン・レイは、ステーブルコインがあまりにも成功することで「政府の財政収入を脅かし、国際金融システムの根幹を揺るがす」と警告している。

彼女は、世界的な貯蓄が大規模にステーブルコインへ移行した場合、銀行は貸出能力を失い、各国政府の資金調達が困難になり、中央銀行の金融政策ツールが無効になると考えている。

連鎖反応としては：

• 金融安定リスク

• 銀行システムの空洞化

• 通貨競争と変動

• マネーロンダリング問題の深刻化

• 税基盤の侵食

• シニョリッジの民営化

• 利益団体によるロビー活動の蔓延

ヘレン・レイは特に、シニョリッジの民営化が「富を少数の企業や個人に極度に集中させ、国際通貨システムの公共性を損なう」と強く懸念している。

「我々は重大な結果に備えなければならない。」と彼女はまとめている。

中立的視点：金融イノベーションの価値

FRBのスティーブン・ミランもまた現行のドルシステムを重視している：「アメリカが提供する準備通貨と資産は世界の公共福祉である。」しかし彼は逆の結論を導き出している：

「ステーブルコインは、金融抑圧を受けている人々がこれらの世界的な公共福祉をより簡単に享受し、厳しい金融制限から解放されることを可能にする。」

暗号資産業界では、FRBの通貨発行を公共の害とみなすことが多いが、ミランの論述は実質的にも戦略的にも的を射ている：法定通貨を公共福祉と定義することが、反暗号的な言説に対抗する最良の枠組みとなる。

前述の見解とは異なり、ミランは銀行システムからの大規模な資金流出は起こりにくいと考えている。なぜなら「GENIUS法案」はステーブルコインに利息も預金保険も認めていないからだ。

「ステーブルコインの真のチャンスは、ドル資産への世界的な需要、特にドルチャネルが制限されている地域でそれを満たすことにある。」

レイはこの需要が各国の主権を脅かすとみなすが、ミランはこれが新興市場の人々に「悪性インフレや為替変動の苦しみを回避させる」と考えている。

この論証は説得力があるが、前提として法定通貨に公共性があることを認める必要がある。

安定機能論：金融サイクルの調整装置

デビッド・ベックワースは、パニック論者が見落としている重要な点を指摘している：「ドルステーブルコインの普及は、実際には世界的な金融変動を緩和するのに役立つ。」

彼はヘレン・レイによる新興市場のドル建て債務が安定性を損なうという研究を引用し、ステーブルコインが民間部門のバランスシートを改善することでこの問題を解決できると提案している：

ドル高でドル建て債務が増加する際、ステーブルコインの同時上昇が新興市場にバッファーを提供する。言い換えれば、「ステーブルコインは分散型のグローバル経済安定装置となり得る」。

FRBがステーブルコインの最後の救済者になる可能性があるという予想と合わせて、これはまさにフラムが懸念するシナリオであり、ステーブルコインの拡大は「世界的な金融サイクルを均衡させるツールとなりつつある」のかもしれない。

ベックワースはまとめている：「かつて中央銀行官僚を震え上がらせたイノベーションが、最終的には彼らにとって最も堅固な基盤となるかもしれない。」

犯罪ツール論：闇に潜むマネーロンダリングの経路

イリノイ州の暗号資産ATM創業者フィラス・アイサがマネーロンダリングの重罪で起訴された事件は、ブロックチェーンが透明で追跡可能であっても、犯罪者が依然としてそれをマネーロンダリングの出発点と見なしていることを思い出させる。

容疑者が現金を暗号資産に交換して1,000万ドルの利益を得た事件は、暗号資産犯罪がオンチェーン資産の窃盗だけでなく、伝統的なブラックマネーをオンチェーン化する経路でもあることを示している。

ステーブルコインの規模が拡大し、伝統的金融と深く融合するにつれ、専門家はマネーロンダリングリスクの増大を懸念している。ヘレン・レイは、ステーブルコインが「違法資金を送金し、各国の税基盤を深刻に侵食する」可能性を指摘している。デビッド・フラムはさらに、「犯罪活動を促進することで国債需要が高まると考えるのは本末転倒だ」と断じている。

これに対して、我々は有力な反論をまだ見つけていない。

実用的視点：平凡な決済ツール

英国上院議員クールヴァン・ランジェが政府にステーブルコインへの立場を質した際、この議会討論は史上最も退屈な記録を打ち立てたかもしれない。

国王の代理として答弁したリヴァモア卿は、ステーブルコインが「国際送金コストを削減し、効率を高める」役割を果たすと予測した。

金融終末や救世主的革命を予言するような驚くべき論調と比べれば、この見解はあまりにも平凡で注目に値しない。しかし、まさにこの平凡さこそが、未来の真実に近いのかもしれない。